――病院――
リゼ「………………」
――トントン
千夜「どうぞ」
リゼ「千夜、おはよう」ガチャッ
千夜「リゼちゃん、今日も来てくれたの」
リゼ「迷惑だったか?」
千夜「ううん、嬉しい」
リゼ「ふぅ……」スッ
千夜「お外、まだ暑い?」
リゼ「いや、歩いていればちょうどいいくらいだ」
千夜「セミの鳴き声も聞こえなくなったものね」
リゼ「窓開けてみるか?」
千夜「うん」スッ
リゼ「わたしがするからいいぞ」
――ガラッ
リゼ「なっ?いい風だろ」
千夜「本当、涼しいわ……」
リゼ「そろそろクーラーも要らなくなるな」
千夜「今年はあっという間ね」
リゼ「ああ」
千夜「風、気持ちいい……」
リゼ「………………」
千夜「もう秋かしら……」
リゼ「っ……――千夜」
千夜「?」
リゼ「具合、どうだ……?」
千夜「もう大丈夫よ」
リゼ「あと1週間で退院できるんだよな?」
千夜「お医者さんにそう言われたわ」
リゼ「そうか……そうだよな」
千夜「リゼちゃん、どうしたの?」
リゼ「なんでもない」
千夜「なにか辛そうよ……?」
リゼ「………………」
千夜「良かったら話してみて?」
リゼ「……怖くなった」
千夜「え?」
リゼ「千夜がこのままいなくなるかもしれないって……なんだか急に……」
千夜「…………」
リゼ「ごめん……不謹慎だな……」
千夜「……リゼちゃん」バサッ
リゼ「?」
千夜「お布団、一緒に入りましょう」
リゼ「えっ……」
千夜「ここに来て」ポンッ
リゼ「……でも」
千夜「おいで~♪」
リゼ「……!」
――スッ
リゼ「……狭くないか?」
千夜「平気よ。もたれかかってきて」
リゼ「ダメだ、重いだろ」
千夜「それじゃあ――」
――ギュッ
リゼ「!」
千夜「あったかいわね、リゼちゃんは」
リゼ「ち、千夜……」
千夜「リゼちゃんはどう?」
リゼ「どうって……」
千夜「わたしの身体、あたたかい?」
リゼ「……あたたかい」
千夜「そう、良かった」
リゼ「それに……千夜のいい匂いがして……すごく落ち着く……」
千夜「…………」スンスン
リゼ「……?」
千夜「リゼちゃんは硝煙の匂いね」
リゼ「う……やっぱりそうなのか」
千夜「冗談よ、いい匂いがするわ」スンスン
リゼ「あんまり嗅がないでくれ……//」
千夜「恥ずかしい?」
リゼ「//」
千夜「……」ピタッ
リゼ「お、おい……」
千夜「ふふっ、ドクンドクンいってるわ」
リゼ「仕方ないだろ//」
千夜「リゼちゃんは可愛いわね」
リゼ「すっかり元の千夜だな……」
千夜「ねっ?大丈夫でしょう?」
リゼ「ああ、安心したよ。ありがとう、千夜」ナデナデ
千夜「んっ…………」
――
――――
――――――
――――――――――――――――――――
トントン
シャロ「千夜?」ガチャッ
千夜「シャロちゃん、いらっしゃい」
シャロ「窓が……誰か来てたの?」
千夜「ええ、朝にリゼちゃんが来てくれたわ」
シャロ「そう、リゼ先輩が」
千夜「お昼前に用事があるって帰っちゃった」
シャロ「きっと千夜のこと心配して会いに来てくれたのね」
千夜「そうね。リゼちゃんのことだから、たぶん」
シャロ「退院まであと1週間よね、ちゃんと良くなりなさいよ」
千夜「うん」
シャロ「…………」チラッ
千夜「シャロちゃん?」
シャロ「あっ……なに?」
千夜「今日はアルバイトは?」
シャロ「全部休みよ」
千夜「休日なのね、良かったわ」
シャロ「今日は面会終了時刻まで一緒にいるから」
千夜「せっかくだし、おうちでゆっくりしたほうがいいと思うけど」
シャロ「いいのよ、ここのほうが快適だから」
千夜「お昼寝する?」バサッ
シャロ「眠たくないからいいわ」
千夜「そう、残念」
シャロ「何が残念なのよ……」パラッ
千夜「本読むの?」
シャロ「騒がしくしてたら眠り辛いでしょ」
千夜「わたしも眠たくないから平気よ」
シャロ「え……千夜、眠らないつもり?」
千夜「お昼寝は疲れた時にしか……病院はずっとベッドの上だもの」
シャロ「それじゃあ困るじゃない!」
千夜「!」
シャロ「えっと……ほら、千夜も一応まだ病人なわけだし」アセアセ
千夜「……?」
シャロ「安静に寝ておいた方がいいと思って」
千夜「クスッ……寝た方がいい?」
シャロ「そうね……」チラッ
シャロ「少しだけ話してから寝る?」
千夜「相手してくれるの?ありがとうシャロちゃん」
シャロ「その代わりちゃんと寝ないとダメよ?」
千夜「5時くらいにはお昼寝するわ」
シャロ「そ、そこまで細かく言うつもりはないけど……」
千夜「シャロちゃんは優しいわね……ううん、みんな……」ボソッ
シャロ「千夜?」
千夜「夏休み、楽しかった?」
シャロ「ん……楽しかったけど、やっぱり千夜がいないと調子が狂うっていうか」
千夜「寂しがってくれたの?」
シャロ「そういう意味じゃなくて!……ココアもチノちゃんもリゼ先輩も、みんな元気がなさそうだし」
千夜「シャロちゃんは?」
シャロ「ぅ……と、とにかく、早く治して戻ってきて。待ってるから……//」
千夜「分かったわ。シャロちゃんも待っててくれてるのね」
シャロ「……ずっと待ってるわよ。千夜が入院した日から」
千夜「今年は一緒に花火できなかったわね、ごめんなさい」
シャロ「いいわよ別に、どうせ来年も再来年も一緒にするし」
千夜「シャロちゃんなりのプロポーズ?」
シャロ「茶化すなぁ!//それに今年の花火もまだ終わってないし」
千夜「えっ?」
シャロ「千夜が退院するまで待とうってことになったの。手付かずの花火が甘兎庵に置いてあるわ」
千夜「そうだったの……みんなに気を遣わせちゃったわ」
シャロ「気なんて遣ってないの。千夜抜きでやっても楽しくないからってだけ」
シャロ「ココアやリゼ先輩が打ち上げ花火とかも買ってたし、今年は賑やかになりそうよ」
千夜「2か月遅れの花火ね」
シャロ「夏休み中ずっとベッドの上だったんだし、思う存分楽しみなさいよ」
千夜「ええ、シャロちゃんと一緒に線香花火がしたいわ」
シャロ「小さい頃から線香花火好きよね、千夜って」
―――――――――――――――――――
――――――
――――
――
シャロ「………………」Zzz
千夜(どうしよう、撫でてあげてたら寝ちゃったわ……)
千夜(きっと日頃の疲れがたまっているのね)
千夜(でも時計を気にしていたし、たぶん…………)
ブー! ブー!
千夜「!」
千夜(メール……)
千夜「………………」
千夜「あ、黒いウサギがぁ……!」
シャロ「!」ハッ
シャロ「う、うさぎ、どこ!?」
千夜「すぅ………すぅ………」
シャロ「今何時……!?――5時半……」ホッ
シャロ(千夜は……良かった、寝てる)
ブー! ブー!
シャロ(ココアから電話……確かこの病院は個室内はオッケーだったわよね)ピッ
シャロ「もしもし、ココア?」
シャロ「――分かってるわよ。いま千夜が寝たところだから」ヒソッ
シャロ「――ダメよ、クラッカーとか飾り付けとかは禁止」
シャロ「作ったケーキとプレゼントだけでいいから」
シャロ「慌てずゆっくりでいいわよ、入り口で待ってるわ」ピッ
千夜「………………」
シャロ「さて……」
シャロ「千夜……ちょっと行って来るわね」
シャロ「すぐに戻ってくるから」ポンッ
千夜「………………」
シャロ「千夜の誕生日……忘れるわけないじゃない」ナデナデ
シャロ「ふふっ……」ニコッ
千夜「…………」グスッ
シャロ「夏休みの間、アルバイトで側にもいてあげられなくて……」
シャロ「今日はその分の埋め合わせ、全部するわ」
シャロ「千夜……よく頑張ったわね、お疲れ様」
――ポロッ
シャロ「泣いてる……?千夜……大丈夫?」
シャロ「待ってて、用意が済んだらすぐに起こすから……」タタッ!
ガチャッ バタン
千夜「…………//」ポロポロ
千夜「グスッ……ック……//」ポロポロ
千夜(泣き止まないと……早く……//)グシグシ
千夜(っ……シャロちゃん、リゼちゃん、ココアちゃん、チノちゃん……//)ジワッ
千夜(みんな……――ありがとう//)ポロポロ
――おしまい♪
感想
千夜良かったね。いい友達を、持ってっと思った
無窮の夜に続いてるのかな~なんて思いながらよむと、千夜が救われないなという気持ちでいっぱいになります。
これから無窮の夜の考察や感想を書いていきたいとは思っているのですが一体千夜はなぜ倒れたのか、長い入院をするほどの事故とは?(それとも事件…?)
なんだか考察が迷宮入りしそうなのですが、とにかく千夜にやさしい友人がちゃんといて良かったです。そして千夜もすごい配慮ですね!シャロの様子から誕生日を祝おうとしているのを見抜いてしかもシャロの起こし方と寝たふりというダブルの気遣いが抜け目ないです。千夜はもう少し休憩すべきですね。
なるほど、確かに世界観が繋がりますね。
もし無窮の夜に続いているとするなら、あまりに残酷です。
千夜ちゃんの、過剰に相手に気を遣いすぎてしまう性格。
この子のこういう優しい部分に、わたしはとてつもない不安と闇を感じます。(そのせいで砂水クジラの作風の犠牲になる率が一番高い子です)
Beyondさんのおっしゃる通りです、千夜ちゃんはもう少し楽に生きないといけません。
自分に対してあまりに厳しすぎる気がするのです。
それもこの千夜ちゃんというキャラクターの大きな魅力なのですが。