ごちうさSS リゼ「落ち込んでいる千夜を慰める」

 

――甘兎庵――

 

リゼ「千夜、おはよう」ガラッ

 

千夜「……リゼちゃん」

 

リゼ「夏休みの宿題か?」

 

千夜「ええ」

 

リゼ「早く終わらせておいた方がゆっくり遊べるもんな」

 

千夜「……うん」

 

リゼ「…………」

 

リゼ「なぁ、千夜」

 

リゼ「それが終わったら、一緒にお店出てみないか?」

 

千夜「…………」ウツムキ

 

リゼ「あっ、嫌だったらいいんだぞ!……そっか……そうだよな」

 

千夜「……ごめんなさい」

 

リゼ「いいんだ、わたしのほうこそすまない」

 

千夜「…………」

 

リゼ「千夜……?」

 

千夜「ふふっ……おかしいわよね、あんなに甘兎庵を全国進出させるって張り切ってたのに」

 

リゼ「………………」

 

千夜「あんなことくらい、接客業なら日常茶飯事なのに……ダメね、わたしってメンタル弱いわ」

 

千夜「ほんとにダメ……」

 

リゼ「……嫌なことがあったら誰だって悲しいし、落ち込んだりするさ」

 

千夜「………………」

 

リゼ「ましてやお前はあんまり人の悪意なんて知らなかっただろうから、余計にショックが大きかったのも分かる」

 

千夜「…………」グスッ

 

リゼ「人に平気で嫌な思いをさせる人間って、世の中にはたくさんいるんだよ」

 

千夜「…………」ポロポロ

 

リゼ「……千夜、しばらく何も考えないでゆっくり休んでみろよ」

 

リゼ「そうしたらまた、なにか見えてくるさ」

 

千夜「……そう…かしら」

 

リゼ「ああ、だから今はなにも気にしなくていいんだぞ」

 

千夜「……ごめんなさい」

 

リゼ「いいさ、誰だってそんな時があるんだよ……お前だけじゃない」

 

千夜「っく……ぐすっ……ひっく……!」ジワッ

 

リゼ「また明日も、会いに来るよ」

 

 

――1週間後 公園――

 

リゼ「どうだ、久しぶりの外の空気は?」

 

千夜「そうね……なんだか新鮮な気分だわ」

 

リゼ「あとでラビットハウスやシャロの家にも寄ろう、みんな心配してたぞ?」

 

千夜「うん、たくさんメールが来たから」

 

リゼ「みんな、お前が元に戻るのを心待ちにしてるんだ」

 

千夜「……優しいのね、みんな」

 

リゼ「ああ、世の中には色んな人間がいるんだよ」

 

千夜「………………」

 

リゼ「千夜……?」

 

千夜「この町に住んでるのは、良い人たちばかりじゃないのよね」

 

千夜「こうして見てると、そんな風には見えないのに……」

 

リゼ「………………」

 

リゼ「なぁ千夜、一緒にこの原っぱに寝ころんでみないか?」

 

千夜「えっ?」

 

リゼ「服なんか後で洗えばいいんだよ、ほら」グイッ

 

千夜「きゃっ……」ポスッ

 

リゼ「ふぅ……」

 

リゼ「どうだ、いい景色だろ?」

 

千夜「もう、リゼちゃんたら強引ね」

 

リゼ「悩んでるときは思い切って行動した方が解決するんだよ」

 

千夜「……そうよね」

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「お店に出るの、まだ怖いか?」

 

千夜「……ううん」

 

リゼ「そうだよな、千夜はこんなことをいつまでも引きずるような器じゃない」

 

リゼ「だからきっと、他のことで悩んで立ち止まっているんだって思ってたよ」

 

千夜「………………」

 

千夜「リゼちゃん……くだらない話、聞いてもらってもいいかしら?」

 

リゼ「ああ、なんでも話してみろ」

 

 

千夜「……なんだかね……疲れちゃったの」

 

リゼ「疲れた、か」

 

千夜「あっ、別に甘兎庵が面倒になったとかじゃなくて……」

 

千夜「……以前まで持ってた情熱とかやる気とか、自分の中から嘘みたいに無くなっちゃってて」

 

千夜「なんだか……本当に自分が空っぽになったみたいな気がして」

 

千夜「こんな中途半端な気持ちで接客しても、きっと甘兎庵にもお客さんにも迷惑をかけるだけだと思うの」

 

リゼ「……なるほどな」

 

千夜「あんなことで甘兎庵進出の野望も、きれいさっぱり無くなっちゃうなんて……」

 

リゼ「ほんの些細なきっかけひとつで、人の性格や人生って良くも悪くも変わってしまうもんなんだよ」

 

リゼ「千夜の場合、たまたまそれがこんな出来事だったってだけだ」

 

千夜「……甘兎庵は、本当にわたしの叶えたい夢じゃなかったのかしら」

 

リゼ「……………………」

 

千夜「ダメね……おばあちゃんにもアンコにも、合わせる顔が無いわ」

 

リゼ「……お前にとって甘兎庵がどんな存在だったのか、それはわたしにも分からないけど」

 

 

リゼ「でもな――意外と簡単には無くならないんだぞ、叶えたい夢とか、好きなことに対する情熱って」

 

 

千夜「え……」

 

リゼ「ほら、わたしってミリタリーとか好きだろ?モデルガンとかナイフとか」

 

リゼ「でもやっぱり女子でそういうのが好きだと周りから変な目で見られてしまうみたいでな、お前たちと会うまでろくに友達もできなかったよ」

 

 

リゼ「だから中学生くらいの頃かな、一度だけミリタリー趣味をやめようとしたことがあるんだ」

 

千夜「リゼちゃんが?……でも」

 

リゼ「ああ、結局やめられなかった」

 

リゼ「とはいっても、最初の頃は上手くいってたんだ。天体観測とかゲームとか、他に気を移すものもたくさんあったし」

 

リゼ「5か月もすれば、もうミリタリー趣味なんて情熱の欠片も無くなってたよ」

 

リゼ「でもな……ある日懐かしくなって裏庭の射撃場をふと覗いてみたんだ」

 

リゼ「そしたらさ、なんだか久しぶりに的を撃ってみたい衝動に駆られて」

 

千夜「ふふっ……撃っちゃった?」

 

リゼ「ああ、でもさすがにスランプだったのか、百発百中だったはずの射撃が一発も当たらなくなっててな」

 

リゼ「やっと一発当たったとき……ほんとにうれしかったよ」

 

リゼ「なんて言えばいいのかな、初めてミリタリーにハマったときの情熱とかが一気に蘇ってきたみたいでさ」

 

リゼ「初めてできた頃のすごく嬉しかった気持ち、思い出したんだ」

 

千夜「……!」

 

リゼ「その時気付いたんだよ、ああ、そういえば忘れてたなぁって。どうしてミリタリーを好きになったのか」

 

リゼ「いつのまにか当たり前になってたことが初めてできた時はすごく嬉しかったから、だからあんなに好きになったんだって」

 

リゼ「あの初めてできたときの感激が、今ではもう忘れられなくてな」

 

千夜「…………」

 

リゼ「いまは空っぽでもさ、千夜にもまたいつかそんな時が来ると思う」

 

リゼ「わたしにはあの頃のお前の情熱が嘘だったとは、到底思えないんだ」

 

千夜「リゼちゃん……」

 

千夜「………………」

 

リゼ「……少し脱線したな、すまない」

 

リゼ「さて、そろそろラビットハウスにでも行くか」

 

千夜「あの、リゼちゃん……わたし……」

 

――ポン ナデナデ

 

千夜「あ……」

 

リゼ「行きしなに、シャロの家にも寄るか」ニコッ

 

千夜「……うん♪」

 

 

――

――――

――――――

 

――IN ベッド――

 

千夜(初めてできた時の感激……か)

 

千夜(そういえば、わたしも初めてお客さんにありがとうって言ってもらえた時、嬉しくてしょうがなかったっけ……)

 

千夜(おばあちゃんに全ての接客を任されたときは、甘兎庵を一人で引っ張っていくくらいのつもりで……)

 

千夜(でも、それがいつのまにか当たり前になってて……感動も実感も忘れて、嫌なことだけに目がいって……)

 

千夜(甘兎庵を大きくしたいと思ったあの時の気持ち、すっかり忘れてたわ)

 

千夜「……ふふっ、リゼちゃんの言うとおりね」

 

千夜「……アンコ?わたし、また明日から頑張れるかな?」

 

アンコ「」フンス

 

千夜「ありがとうアンコ……また二人で、初心に返ってやり直しましょう」

 

アンコ「」フムフム

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

――翌日 甘兎庵――

 

リゼ「…………」ガチャッ

 

千夜「いらっしゃい♪」

 

リゼ「!……千夜」

 

千夜「今日のおススメは原点に戻って、甘兎庵名物の千夜月よ」

 

リゼ「そうか……また、頑張るんだな」

 

千夜「だってわたしには、甘兎庵の世界進出っていう大きな野望があるわ」

 

千夜「今日はその野望に近づくための、大事な一歩だから」ニコッ

 

千夜「昨日よりも前に進むの、いつかの明日のために」グッ

 

リゼ「千夜……」

 

千夜「リゼちゃん、長い間ごめんね……わたし、もう大丈夫よ」

 

千夜「これが、本当にわたしの好きなこと……叶えたい目標……」

 

千夜「だから、続けるわ♪」

 

リゼ「ああ……ああ!それでこそ千夜だよ」

 

千夜「ふふっ、リゼちゃんぎゅー」ギュッ

 

リゼ「おいおい」クスッ

 

千夜「ありがとうリゼちゃん……大好きよ」ボソッ

 

リゼ「んっ?」

 

千夜「ううん、なんでも♪」

 

リゼ「?」

 

――おしまい♪

感想

  1. ナナシ より:

    新作ありがとうございます!!ずっと待ってました!!!!今回のも面白かったです!!また更新待ってます!!

    • 砂水クジラ砂水クジラ より:

      いつもご愛読ありがとうございます♪
      それと、更新頻度が遅くて申し訳ありません。
      次回作もご期待に添えられるよう、構想を練って良作に仕上げたいと思います。

  2. 名有り より:

    接客ってやはり勇気のいる仕事ですよね…私も将来接客業に勤めようと思っているので、他人事には思えません(~_~;)
    私もリゼちゃんのように一度決めたことを最後までやり通せるようなメンタルが欲しいです…

    • 砂水クジラ砂水クジラ より:

      同感です、強いメンタルって憧れますよね。
      世の中には全く理屈の通じない輩が少なからずいますので、名有りさんがそんな人たちと出会わないことを切に願うばかりです。

  3. はなまるびぃ より:

    ええなぁ…ええなぁ〜…ええなぁ!

  4. もふもふ至上主義 より:

    しっかりものの千夜ちゃんが落ち込むなんてこともあるのですね。
    でもリゼちゃんのナイスフォローで千夜ちゃんに笑顔が戻って良かったです。
    シャロちゃんが見たら嫉妬しそうですねw

    砂水さんのssは全体的に温かくて、画像は無くとも情景がよく浮かんで来ます。
    最近はリゼちゃんが活躍するお話が多くて嬉しいです。
    いつも心の拠り所をありがとうございます。

    • 砂水クジラ砂水クジラ より:

      こちらこそありがたいお言葉、本当にありがとうございます。
      本心を言えば画像も書き下ろしたいのが本音なのですが、まだまだ画力不足でして。

      リゼちゃんはキャラクター的にどんなお話にでも絡ませやすいうえ、突っ込み役もフォローも行えますので必然的に多くなってしまって。
      わたしのSSにとってリゼちゃんは正に『アイデアに困った時の頼り綱』なのです。

  5. 井村洸行 より:

    とっても面白いです。

  6. Beyond the Average より:

    寄り添うだけでなく背中をおしてくれるリゼ先輩カッコイイ!テストや模試で心身疲れたときに読むと元気をもらえます。
    また頑張らないとな、ってなれますね。

    • 砂水クジラ砂水クジラ より:

      千夜ちゃんは寄り添ってもらう側も寄り添う側も似合いますね。
      カッコよくて優しいリゼちゃんに、たくさん元気をもらってください。

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