――早朝 ラビットハウス――
チノ「許せません……!」ゴゴゴ
リゼ「………………」
リゼ(どうしよう、来てみたら何か知らないがチノが怒っている……)
リゼ「お、おいチノ、どうしたんだ?」
チノ「リゼさん!良いところへ」
チノ「聞いてください、大事件です」
リゼ(なんだろう、嫌な予感がプンプンする……)
チノ「実は――」
チノ「食べようとキッチンに置いていたイチゴが無くなりました!」
リゼ「……へっ?」
チノ「ですから、わたしが楽しみに取っておいたイチゴが無くなったんです」
チノ「きっとラビットハウスに泥棒が入ったに違いありません」
リゼ「………………」
チノ「わたしやココアさん、あまつさえ父にも気付かれずに侵入するなんて……さてはプロですね」
リゼ「……いや」
チノ「わたしとしてもこのままでは終われません、必ず犯人を突き止めなければ――」
リゼ「突き止めるも何も、たぶんココアの仕業だろ?」
チノ「」
チノ「……リゼさん、いまなんと?」
リゼ「えっ?だから、ココアが食べたんだろうって」
チノ「……リゼさんでも言って良いことと悪いことがありますよ」
リゼ「いや、でも普通に考えたら――」
チノ「ココアさんじゃありませんっ!!」ドカッ!
リゼ「うわっ!?」
チノ「あのココアさんが可愛い妹の大切なイチゴを盗み喰いするはずないです!」
リゼ「盗み喰いって……というかいま自分で妹って言わなかったか?」
チノ「こほん、聞き間違いでしょう」
リゼ「………………」
チノ「とにかく、ココアさんは断じて違います」
リゼ「そうはいってもだなぁ……例えば悪気は無かったにせよキッチンに置いてあったからつい食べちゃったとか」
チノ「ありえません」
リゼ「もしくは夜中に目が覚めて小腹がすいて、キッチンにあったイチゴを――」
チノ「絶対に無いです」
リゼ「……………………」
チノ「……………………」
リゼ「なぁチノ?」
チノ「はい」
リゼ「どう考えてもまずココアが一番怪しいと思わないか?」
チノ「……いいんですか?」
リゼ「ん?」
チノ「このままだとこの話、始まって数十秒でおしまいですよ?」
リゼ「………………」
チノ「よって、どう転ぼうともココアさんが犯人なはずありません」
リゼ「……じゃあ誰が?」
チノ「これからそれを二人で探すんです」
リゼ「またこの流れなのか……」
チノ「さぁリゼさん、真犯人を探し出しましょう!」
リゼ(たかがイチゴのために……犯人は絶対ココア……この二つの要素で謎解き……)
リゼ(一体なんの罰ゲームだ、これ)
かくして名探偵チノとその助手、リゼによるその名も『イチゴ泥棒事件』の捜査がここに幕開けされることとなった。
次々と繰り出されるチノの迷推理に突っ込まざる終えないリゼ。
話が進んでいくにつれ増えていく無数の容疑者、否、被害者たち。
普通にテンプレートをなぞれば即効で解決してしまうであろうこの事件、果たして無事に綺麗な幕切れを迎えることができるのか?
チノ「まずは状況を振り返りましょう」
チノ「昨日の夜、わたしはとっておきのイチゴをキッチンへと置き、就寝の用意でてんやわんやの後そのまま寝ました」
リゼ「待て待て待て」
チノ「はい?」
リゼ「てんやわんやのところを詳しく言ってくれないと意味無いだろ?」
チノ「それくらい察してください」
リゼ「これ謎解きだよな?しかも一番大事な状況証言だよな?」
チノ「朝起きたらイチゴが無くなっており、既に食べられた後でした」
チノ「さて、以上が犯行までに起こった出来事です」
リゼ「聞かなくても大体予想できた情報だらけだな……」
チノ「次に情報を整理しましょう」
リゼ「整理するほど集まってない上にまだチノ以外の証言すらもないんだが」
チノ「ひとまずこれで大まかな事件の流れは分かりましたね」
リゼ「大まかすぎるけどな、できればもう少し詳細に述べてほしかったよ」
チノ「むむぅ……これだけでは真犯人はおろか、容疑者すらも分かりません」
リゼ「99パーセントココアだよ」
チノ「仕方ありません、まずは怪しい人物から順に聞き込みです」
リゼ「徹底的にスルーの流れか?ならむしろわたしいらなくないか?」
――シャロの家――
チノ「ということでシャロさん、話を聞かせてください」
リゼ「おいこら」ベシッ
チノ「ひどいです……幼くして母を亡くし、父の手一つで内向的に育ってきた後輩にチョップをするなんて……」
リゼ「なんでナチュラルにシャロのところに来てるんだ!怪しい奴から順番にって言ってただろう?」
チノ「はい、ですからまずはシャロさんのところに」
リゼ「うん、お前の言わずとしてることはなんとなく分かるができれば暗黙の了解でスルーして欲しかったよ」
チノ「?」
シャロ「あの、リゼ先輩?チノちゃん?」
リゼ「シャロ……すまない、少しだけこの茶番に付き合ってもらえるか?」
シャロ「は、はい、わたしでよければ……チノちゃん、なにかあったんですか?」
リゼ「」カクカクシカジカ
シャロ「それっておそらくというか……ほぼ間違いなくココアの仕業じゃあ――」
リゼ「シャロ、それは禁句だ!」シーッ
チノ「なにかよからぬことが聞こえたような気がしますがまぁいいです。それでシャロさん、昨日の夜は何を?」
シャロ「確か昨日は夜中の8時までバイトして、その後お風呂に入ってすぐ寝たわね」
チノ「証明できる人間は?」
シャロ「バイト先の店長と千夜と、千夜のおばあちゃんかしら」
チノ「……なるほど」
チノ「これではっきりしましたね」
チノ「犯人はシャロさんです!」ビシッ
シャロ「うぇえぇ!?」
リゼ(いかん、明らかな白を黒にしようとしてる)
チノ「シャロさん、リゼさんをたくみに誤魔化したようですが、わたしはそうはいきません」
リゼ「誤魔化したんじゃなく理解してくれただけだよ」
チノ「真相はこうです」
チノ「シャロさんは早めに寝たフリをして、その実ラビットハウスに忍び込むための準備を虎視眈々と整える」
チノ「そしてみんなが寝静まった深夜、父の営業しているバーの裏口から侵入。その後キッチンに向かいイチゴだけを食べてすぐさま裏口から逃走……これが犯行の全てです、動機は貧困から起こる――」
リゼ「ラビットハウスの裏口って夜は閉めてるよな、防犯のために」
チノ「あっ」
リゼ「いま素で『あっ』って言ったよな!?」
シャロ「もし食べ物目的ならわざわざばれやすいテーブルの上のイチゴじゃなくて冷蔵庫の中の食料を取ると思うんだけど……」
チノ「……………………」
チノ「シャロさんは白ですね」テヘペロ
リゼ「うん、やっと分かったか」
チノ「真犯人は千夜さんです!」
リゼ「今の流れでどこから千夜を出てきたんだ!?シャロ以上にひどいとばっちりだ!」
シャロ「でも……千夜のおばあちゃんって怖いし、深夜に外出なんて許してくれないと思うけど」
リゼ「それに、仮に許してもらったにせよ裏口は閉まっていたわけだろ?窓から侵入するにしても千夜は運動神経が悪いから無理だし」
チノ「………………」
リゼ「……外部からの犯行じゃなくないか?」
チノ「ふふっ、そんなこととっくに分かっていましたよ、あえてリゼさんたちを試したんです」
シャロ(絶対分かってなかったわよね、チノちゃん……)
リゼ(これでやっと被害者を少なくできる……)
チノ「しかし内部の犯行である以上、ココアさんが黒だという可能性も少なからず出てきましたね」
リゼ「序盤から出てたよな、むしろどうして疑わないのか不思議なほどに」
チノ「また振り出しに逆戻り、ですね」
リゼ「振り出しのまま動いてないと思うが。むしろ一歩でも動いたら事件解決だろうし」
チノ「父やティッピーにも容疑をかけてよいものでしょうか?」
リゼ「かけるなと言ってもかけるだろお前は」
チノ「こうしていられません、内部の犯行だと分かった以上早くラビットハウスに戻りましょう」
リゼ「さっきわざと試したって言ってたよな!?」
シャロ(リゼ先輩、お気の毒です……)
――ラビットハウス――
チノ「真犯人は、ティッピー&お父さん。もしくはティッピー&青山さんです!」
リゼ「青山さんは外部だ」
チノ「ではティッピー&お父さんです」
リゼ「絶対ティッピーいらないだろ!?」
チノ「リゼさん、ティッピーの食欲を知らないんですか?」
リゼ「知るか」
チノ「わたしも知りません」ドヤァ
リゼ「もう帰ってもいいよな、わたしここまでで結構頑張ったよな?」
チノ「父に会いに行きましょう」トコトコ
リゼ「ココア連れてくれば終わるのに……なんでこんなまわりくどいこと」トボトボ
チノ「お父さん、わたしのイチゴを食べましたね」
リゼ「唐突過ぎるだろ!ちゃんと順序踏まえて説明しろよ」
カクカクシカジカ
チノ「ということです」
タカヒロ「なるほどね、キッチンのイチゴが……」
リゼ「あの、乗らなくていいですから。もう突っ込むのも限界なんで」
チノ「お父さんはわたしとココアさんが寝静まったあと、これみよがしに自分を鏡に映しながらイチゴを豪華に3個一気食いとかてんやわんやしながら楽しく食べたんです」
リゼ「出たよてんやわんや……自分を鏡に映す意味って……」
チノ「正直に答えてくれれば許しますので」
リゼ「おいおい、そんな決め付けた風な言い方……」
タカヒロ「あのイチゴなら、昨日の夜ココアくんが厨房に持っていくのを見たよ」キラッ
チノ「」
リゼ「ほら……だから最初から言ってるじゃないか。どうせココアが食べたんだって」
チノ「……そんな、なんというどんでん返し……『事実は小説よりも奇なり』とは正にこのことです」
リゼ「使い方間違ってるな、この場合『北に近づけば南に遠い』って言うんだ。もしくは至極当然」
チノ「父が嘘を付いている可能性も十分に考えられますが……裏を取るためにも、ココアさんを疑うことは避けては通れないようですね」
リゼ「あれだけ堂々と立ってたフラグを今までお前が無理やり無視したんだろう……」
チノ「リゼさん行きましょう、とうとう真相が明らかになります」
リゼ(なんだろうこの気持ち……ああ、一度見たミステリードラマを再放送でもう一度見ているときのあれだ)
――厨房――
チノ「いました」ガチャッ
リゼ「ココア、こんなところにいたのか」
ココア「あっ、チノちゃん、リゼちゃんもおはよう!」
チノ「……ココアさん、落ち着いて聞いてください」
ココア「ふぉぇ?どうしたのチノちゃん?」
チノ「わたしはココアさんのことを信用しています」
チノ「ココアさんは人のものを黙って盗むような人ではないと信じています」
ココア「う、うん、ありがとう?」
リゼ(前置きが長い……)
チノ「それを踏まえた上で、こんなことを聞くわたしを許してください」
チノ「……ココアさん、キッチンに置いてあったイチゴを知りませんか?」
ココア「うん、知ってるよ。これのことだよね?」スッ
チノ「……!」
リゼ「やっぱりお前の仕業か」
チノ「……これではっきりしました」
チノ「キッチンに置いていたわたしのとっておきのイチゴを食べた犯人……それは――」
チノ「ココアさんです!」ビシッ
リゼ「最初からそうだと言ってるだろ……」
チノ「やはりわたしの予想通り……リゼさんやシャロさんを誤魔化せてもわたしの目は誤魔化せません!」
リゼ「絶対無いとかありえないとか断じて違うとか散々言ってたよなお前」
チノ「……こほん!」
チノ「ココアさん、なにかわたしに言うことがあるんじゃないですか?」
ココア「わたし、イチゴなんて食べてないよ?」
チノ「!」
チノ「……やはり、そうでしたか。真犯人は――モゴゴ」
リゼ「もういい、このままだとエンドレスだ」
リゼ「ココア、食べてないとはどういうことだ?パックに入っていたイチゴは?」
ココア「冷蔵庫の中だよ~」
リゼ「冷蔵庫?」
ココア「昨日の夜、キッチンでイチゴのパックを見つけたんだけど、賞味期限が昨日までだったからはちみつ漬けにしておいたの」
ココア「いま冷蔵庫で冷やしてて……ほら、いい感じにできてる♪」
リゼ「……なるほど、つまり、ココアはイチゴが腐らないようにはちみつ漬けにしておいたと」
ココア「うん、こうすればまだ食べられるから。それにチノちゃんのかもしれないし、賞味期限前でも勝手に食べたりしたらダメだと思って」
リゼ「……つまり、ココアは白だったということか」
リゼ「いや違うな、白ココアだ。……ココア、疑ったりして悪かったな」ナデナデ
ココア「ううん、実はこっそり一個だけ味見で食べちゃったから」エヘヘ
リゼ「そんなの気にするな、お前のおかげでイチゴが無駄にならずに済んだんだから」
ココア「これチノちゃんのだったんだぁ。ごめんね、ちゃんと置き手紙とかすればよかったね」
リゼ「いや、最初からお前に聞いておけばそれで済む話だったんだ、わたしたちの方こそすまない」
リゼ「…………さて」
チノ「ふふん、だから言っていたでしょう?犯人はココアさんじゃないと」ドヤッ
リゼ「…………」
チノ「ともあれ、イチゴ泥棒事件はこれにて大団円です」
チノ「どうでしたかリゼさん、わたしの名推理」ドヤドヤ
リゼ「…………」ピキピキ
チノ「それにしても、さすがはココアさんです。わたしの意図を読み取って腐りかけていたイチゴを保護してくださっ――」
リゼ「待て、まだ終わってない」
チノ「……っ」ビクッ
リゼ「この事件の黒幕……惨禍を引き起こしたすべての元凶……」
リゼ「犯人はチノ、お前だー!!」
チノ「さらばです」ダダダ!
リゼ「待てぇ!逃がすかー!」ドタドタ
ココア「…………」ポカーン
ココア「よくわからないけど、あとでみんなで食べよっと」
ココア「……」
ヒョイ パクッ
ココア「……んっ、おいしい♪」
――完
感想
かわいい
やっぱりごちうさですわ
だんだんとチノちゃんが暴走してきてますね…妹属性(?)でも出来たんでしょうか?(笑)
本シリーズに至っては間違いなくそうですね;
以前に原点回帰を目指すと言っていながらまた悪乗りで変なSSを……申し訳ございません。
チノってイチゴ好きだったんだwwこんなチノもかわいいです❤️
今後もチノちゃんの魅力を本シリーズで余すことなく引き出していきたいと思います。
こんにちわ★まっさきにシャロ宅訪問腹抱えて笑いましたwww
シュールなギャグでしたが、ご理解いただきうれしく思います!