ごちうさSS リゼ「タカヒロさんの口臭がヤバい」

 

雲一つない快晴の空。

太陽が石畳の街を照らす爽やかな休日の早朝、その事件は起こった。

 

――洗面所――

 

チノ「」ゴシゴシゴシ

 

チノ「」ガラガラガラ ペッ

 

チノ「ふぅ……」フキフキ

 

チノ「」トテトテ

 

チノ(ココアさんは……どうせお昼まで起きてこないでしょう)

 

チノ(朝ご飯は適当に済まそう)

 

チノ「♪……――――っ!?」

 

ティッピー「あっ……ああ…………」ピクピク

 

チノ「おじいちゃん!?」

 

ティッピー「うべ……ひでぶっ……」バタン

 

チノ「おじいちゃん!しっかりしてください!」

 

ティッピー「ち、チノ……逃げろ、早く……」

 

チノ「……!?どういうことですか?」

 

ティッピー「息子が……タカヒロが……うっ」

 

チノ「おじいちゃん……!」

 

ティッピー「」チーン

 

チノ「い、一体何が……とりあえず、早く病院に――」

 

ガチャッ

 

タカヒロ「チノ、おはよう。ティッピーを知らないかい?」

 

チノ「お父さんっ!ティッピーが――!」

 

チノ「―――――!!?」

 

 

――

――――

――――――

 

リゼ「わーくわくテクテクどこへゆ~くの~♪」

 

リゼ「いい天気だな」

 

リゼ(さて、今日も一日頑張るか!)

 

ガチャッ

 

リゼ「待たせたな、おはよう」

 

シーン

 

リゼ「……あれ?」

 

リゼ(おかしいな、ココアはどうせ寝坊にせよ、いつもならチノは起きているはずなのに……)

 

リゼ「チノー?わたしだー」

 

シーン

 

リゼ(まさかあいつも寝坊か……まったく、しょうがない奴らだ)

 

リゼ「とりあえず開店準備だけでも済ませて――」

 

チノ「……リゼ、さん」ズルズル

 

リゼ「わあぁ!?」ビクッ

 

リゼ「ち、チノ!どうしたんだ!?」

 

チノ「……父が、お父さんが」

 

リゼ「父……?タカヒロさんがどうかしたのか?」

 

チノ「あうぅ……ティッピーが連れていかれて……ごぼっ!」ブシュッ

 

リゼ「チノ!?……わかった、テロリストだな!待ってろ、今すぐ家から武器を――」

 

チノ「いえ……武器は不要です」

 

リゼ「なっ……!?」

 

チノ「――代わりに、ガスマスクをお願いします」

 

リゼ「――へっ?」

 

チノ「うっ……」バタッ

 

チノ「」チーン

 

リゼ「チノぉ!!」

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

チノ「リゼさんありがとうございます、おかげで一命を取り留めました」スーハースーハー

 

リゼ「言われた通りガスマスクと酸素ボンベを持ってきたけど……いったい何があったんだ?」

 

チノ「……匂い」

 

リゼ「んっ?」

 

チノ「匂いです……父の」

 

リゼ「タカヒロさんの匂い?体臭ってことか?」

 

チノ「体臭かどうかは分かりませんが……もう言葉では言い表せないほどの匂いです」

 

リゼ「いや、そんなおおげさな……」

 

チノ「大げさじゃないです!現にわたしは間近で嗅いで生死の境を彷徨ったんですから!」

 

リゼ「うちの親父もタカヒロさんと同い年くらいだが、別に体臭なんて気にならないぞ?」

 

チノ「違うんです。あれは加齢臭とかそんな領域ではなく、もはや公害レベルの――」

 

リゼ「ああ分かった分かった、わたしが確かめてきてやるから」テクテク

 

チノ「リゼさん待ってください!せめてこのガスマスクを装着してから――!」

 

 

リゼ(まったく、父親の体臭が気になりだすとはチノももう思春期だな)

 

リゼ(わたしはずっと親父と過ごしてきたし、今更ちょっとやそっとの男臭さくらい――)

 

リゼ「タカヒロさーん、ちょっといいですか?」トントン

 

タカヒロ「リゼくんか、入って構わないよ」

 

リゼ「失礼しま――ごぇげぼぉ!!?」バタッ

 

タカヒロ「リゼくん!?大丈夫かい?」

 

リゼ「がっ……あ……」ピクピク

 

チノ「リゼさん!こっちです!」ガスマスク

 

リゼ「ああ……死神が迎えに来た……」ズルズル

 

タカヒロ「……?」

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

チノ「どうでしたか?」

 

リゼ「うん……部屋に入った瞬間、人間が生きられる空間が一切無くなった」

 

リゼ「なんかもう、あの部屋で尋問とかされたら白状する以前に絶命しそうなレベルだ」

 

チノ「昨日までは特に何も匂わなかったのに、いったい父の身に何が……」

 

リゼ「ともかく、あれじゃあバーの経営はおろか外に出ることさえも危険だぞ」

 

チノ「そうですね、道を歩けば恐らく約10メートル以内の人に実害を及ぼすでしょう」

 

リゼ「つまり、今はまだあの部屋の中だけで被害が収まってはいるが、夜までに解決できないと――」

 

チノ「次々やってくる常連さん、ドアを開けた途端にそのまま病院送り、最悪ラビットハウスは営業停止、良くても責任問題……」

 

チノリゼ「」ゾゾーッ

 

チノ「これは由々しき事態です、早く何とかしないと」オロオロ

 

リゼ「落ち着けチノ、まずは援軍を呼ぼう」ピッピッ

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

千夜シャロ「」ゲッソリ

 

リゼ「どうだった……?」

 

千夜「ええ……想像以上だったわ」

 

シャロ「ラフレシアとくさやとカビチーズの匂いを混ぜたような……」

 

千夜「そうね、あれなら失神しても何もおかしくないわ」

 

リゼ「納得してくれたか」

 

チノ「千夜さんシャロさんお願いします、ラビットハウスのため一緒に解決策を考えてください」

 

千夜「そうね……とりあえずこのガスマスクは必須として」カチャッ

 

シャロ「まずは匂いの原因を探らないと……そもそもあれってほんとに体臭なのかしら」

 

リゼ「そこなんだ、あんな加齢臭を纏った人がいたら今頃地球外永久追放になってるだろ」

 

チノ「まずは匂いの原因を調べますか?」

 

千夜「体臭、口臭、服の匂い、とにかく匂いに効きそうなものを全て試してみましょうか」

 

 

――――――――――――――――――――――

 

――タカヒロの部屋前――

 

全「…………」ゴクリ

 

リゼ「みんな……用意はいいか?」

 

チノ「はい」

 

千夜「シャロちゃん、気づかれないようにあくまで自然にね」

 

シャロ「わかってるわよ」

 

リゼ「それじゃあ――行くぞ」

 

リゼ「タカヒロさん?」トントン

 

タカヒロ「入って構わないよ」

 

リゼ「失礼しまーす」ガチャッ

 

タカヒロ「みんな勢揃いだね。……おや?ガスマスクなんて付けてサバイバルゲームかい?」

 

リゼ「まぁそんなものです、お気になさらず」ファブリーズ シュッシュッ

 

チノ「…………」スプレー シュー

 

千夜(匂いの原因になるものは見当たらないわね)キョロキョロ

 

シャロ「チノちゃんのお父さん、あの、良ければこれいかがですか?」

 

タカヒロ「これは……ブレスケアかい?」

 

シャロ「は、はい!あっ、でもそういう意味ではなくてですね!ほら、こういう刺激物って食べると目が覚めると思いまして!あはは……!」

 

タカヒロ「なるほど。せっかくのご厚意、ありがたく受け取るよ」パクッ

 

タカヒロ「んっ……おかしいな、口に入れた途端溶けて無くなってしまった」

 

全「!」

 

タカヒロ「シャロくん、これはこういった物なのかい?」プーン

 

シャロ「先輩!原因が分かりました!」

 

リゼ「よくやったシャロ!全軍撤収!撤収!」

 

ダダダッ バタン

 

タカヒロ「…………?」

 

 

リゼ「はぁ……はぁ……なるほどな」

 

チノ「体臭ではなく、原因は口臭のほうでしたか」

 

シャロ「とはいっても、根本的な原因はまだ……どうしてあんな匂いに」

 

千夜「……あの、みんな?」

 

全「?」

 

千夜「さっき部屋を捜索してたら、こんなものが見つかったんだけど」スッ

 

ティッピー「」チーン

 

チノ「ティッピー!?」

 

リゼ「酸素ボンベを!早くっ!」

 

シャロ「は、はいぃ!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

リゼ「どうしよう……タカヒロさんにそれとなく伝えるか?」

 

チノ「ああ見えて父は意外と繊細ですので、できることでしたら内密的な解決法を……」

 

千夜「ブレスケアも効果なし……困ったわ」

 

シャロ「というかブレスケアを溶かすほどの口臭ってもはや兵器じゃない……」

 

 

ココア「おはよー!」

 

全「!」

 

リゼ「ココア!やっと来てくれたか!」

 

ココア「みんなでサバイバルごっこしてるの?わたしもやりたい!」

 

チノ「遊びでやっているわけじゃありません」

 

ココア「えっ……実戦なの!?」

 

千夜「困ったときにはやっぱりココアちゃんね、ふふっ」

 

シャロ「よけい泥沼にハマりそうだと思うのは私だけ?」

 

リゼ「」カクカクシカジカ

 

ココア「もーう!みんなしてわたしのことをからかってるでしょ?」プンプン

 

チノ「信じられないようですが、現実なんです」

 

リゼ「でなきゃガスマスクや酸素ボンベなんてわざわざ用意しないって」

 

千夜「ココアちゃん、目の前の事実を受け止めましょう」

 

シャロ「いまのチノちゃんのお父さんは、歩く公害マシーンよ」

 

リゼ「とにかく口臭が酷すぎるんだよ」

 

ココア「むぅ~みんなダメだよ!」

 

全「!」ビクッ

 

ココア「チノちゃんもリゼちゃんも、千夜ちゃんもシャロちゃんも、人のことを悪く言ったりしたらいけないよ!」

 

ココア「陰でコソコソ悪口言う人はろくな人間にならないってお姉ちゃんもお母さんも言ってた!」

 

ココア「ちょっと匂うからって、タカヒロさんのこと悪く言ったりしたらダメ!」

 

チノ「……ココアさん」

 

千夜「ココアちゃん……そうね……そうよね、ごめんなさい、わたしたちが間違ってたわ」

 

シャロ「……でもね、ココア」

 

リゼ「これはもはや悪口なんかじゃなく、一種の社会問題なんだ……」

 

ココア「もう、まだそんなこと……タカヒロさーん!」

 

リゼ「ココア!?呼ぶんじゃない!」

 

チノ「ガスマスクを!完全防御を!早く!」

 

千夜シャロ「」カポッ

 

タカヒロ「今日はずいぶんと騒がしいね」プーン

 

ココア「」

 

タカヒロ「んっ……ココアくん?」

 

ココア「」シロメ

 

リゼ「ココア……ココアぁ!!」

 

チノ「至近距離で思い切り吸ったせいで……ココアさんは、ココアさんは……」ポロッ

 

千夜「ココアちゃん……あなたのこと忘れないわ」ポロポロ

 

シャロ「お墓はお金が貯まれば立ててあげるから」グスッ

 

ココア「」チーン

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

ココア「――ぷはぁ!はぁ……はぁ……」

 

リゼ「おおっ!奇跡的に蘇ったか」

 

ココア「危うく三途の川を渡るところだったよ」

 

リゼ「お前が気絶してるうちに、タカヒロさんに昨日や今朝食べたものを聞いてきた」

 

シャロ「でも有益な情報は特に……怪しいところで納豆くらいかしら」

 

千夜「接客業ですものね、匂いの残る食べ物にはいつも細心の注意を払っていると思うわ」

 

ココア「人を絶対に寄せ付けないほどの口臭……タカヒロさん、どうしちゃったんだろう」

 

リゼ「まるで催涙ガスだな……――んっ、催涙ガス……?」

 

チノ「はわわ……このままだとラビットハウスが」ガクガク

 

リゼ「ココア、チノ、昨日のことで何か思い当たることは無いか?」

 

リゼ「どんな些細なことでもいい、タカヒロさんとなにか関わったとか」

 

チノ「わたしは普段から父とはあまり……昨日も一緒に晩御飯を食べたくらいです」

 

ココア「わたしも。タカヒロさんいつも忙しそうだし……あっ、そういえば」

 

ココア「昨日倉庫で見つけたドロップをあげたよ」

 

リゼ「ドロップだと……どれ、見せてみろ」

 

ココア「部屋に置いてあるから持って来るね」タタタ

 

千夜「リゼちゃん?」

 

シャロ「先輩、なにか心当たりが?」

 

リゼ「ああ、あくまで勘だけどな」ピッピッ

 

チノ「どこに電話を?」

 

リゼ「自宅だよ、もしかしたら親父の奴が……な」

 

全「?」

 

ココア「リゼちゃんお待たせー、はいこれ」

 

リゼ「!……やはり」

 

リゼ「これ、親父の部屋の隠し戸棚にあったドロップと同じやつだ……小さいころわたしが食べようとして注意された覚えがある」

 

チノ「つまり、原因はこのドロップ……!?」

 

リゼ「まだわからん……――あっ、親父、突然で悪いが、むかし戸棚に変なドロップが――」

 

 

――――――

――――

――

 

リゼ「間違いない、原因はそのドロップだ」

 

全「!」

 

リゼ「そのドロップは親父が現役だった頃、秘密裏に開発された試作品らしい」

 

リゼ「一つ食べれば身体の中で徐々に効果を発揮し、翌日から一日中の間、嗅覚を持つもの全てを滅ぼすほどの悪臭が口から放たれるそうだ」

 

千夜「なるほど、チノちゃんのお父さんはこれを食べちゃったから……」

 

チノ「しかし、なぜそんなものがラビットハウスに……?」

 

シャロ「っていうか、そもそもの原因はココアじゃない!?」

 

ココア「あのドロップってそんなに危ないものだったんだ、あはは……」

 

リゼ「まったく、これからは得体のしれないものを人にあげたりしちゃダメだぞ?」

 

ココア「うぅ、ごめんなさい……」

 

チノ「ともあれ、これでラビットハウスは安心ですね」ホッ

 

リゼ「ああ、匂いの持続は今日一日だけのようだしな」

 

チノ「父にはわたしからそう伝えておきますね」ガスマスク

 

ココア「待ってチノちゃん、タカヒロさんに謝りたいからわたしも行くよ」ガスマスク

 

千夜「ふふっ、面白い事件だったわ」

 

シャロ「全然面白くないわよ、はぁ……疲れた」

 

ココア「……あっ、そういえば」

 

全「?」

 

ココア「あのドロップ……今朝一粒食べちゃったような……」

 

全「えっ……」

 

全「……………………」

 

ココア「えっと……これってやっぱり、明日――」

 

リゼ「退避!退避だー!ココア、明日は部屋から出るな!」

 

ダダダッ!

 

ココア「みんな待ってぇ!いきなりひどいよー!」

 

翌日、ココアの部屋のドア前にはそれはもう大きな、とても手では動かせないようなタンスが置かれていたようです。

また、『チノちゃんひどいよー!出してー!』という声が、ラビットハウスに一日中鳴り響いていたそうである……。

 

 

――おまけ ラビットハウス 夜――

 

リゼ父「……災難だったな」

 

タカヒロ「お前のせいでな。チノやココアくんたちに迷惑をかけてしまった」ガスマスク

 

リゼ父「にしてもお前も甘ちゃんになったな。正体不明な食べ物はまず疑えって鉄則があっただろ?」

 

タカヒロ「娘同然の子がくれるものをいちいち疑ってられるか。開けたことも無かったし、形を見ても判別できなかったんだ」

 

リゼ父「まぁ、口臭なんざ自分では分からないからな」

 

タカヒロ「……………………」

 

リゼ父「……………………」

 

リゼ父「なぁ、タカヒロ?」

 

タカヒロ「なんだ?」

 

リゼ父「そのマスク、一回取ってもらってもいいか?」

 

タカヒロ「お前……」

 

リゼ父「元軍人としてどれほどの威力か気になるんだ、頼む」

 

タカヒロ「……どうなっても知らんぞ、俺は忠告したからな」スッ

 

リゼ父「俺を娘たちと一緒にするな、匂いくらいでいまさら――」

 

タカヒロ「」プーン

 

リゼ父「げぼぉ!!!!」ガハッ!

 

リゼ父「くっせー!!」

 

――おしまい♪

感想

  1. 匿名 より:

    口臭のきついココアちゃんにモフモフされたい!

  2. 名有り より:

    なんのためにリゼ父はそんな恐ろしいものを未だに持っていたのか…
    そしてタカヒロさんお気の毒..(笑)

  3. 千夜推し より:

    タカヒロさんは相変わらず言う事がカッコいいなー

  4. Beyond the Average より:

    ガスマスクを逆に毒ガスを漏らさないように使うのは初めて見ました(笑)。リゼ父は大学で有機化学を専攻してたんでしょうね(きっとサリチル酸メチルとかドーノコーノ…)。
    バスや電車に一定数、口臭が○○な人がいるのですがガスマスクを使うよりもreasonableでsmartな方法は何かないでしょうか?

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