ごちうさSS リゼ「鳥籠の千夜」(閲覧注意)

 

 

当作品は、ごちうさSS リゼ「病床の千夜」(閲覧注意)と世界観を共有しております。(続編かどうかはご想像にお任せです)

先に上記の作品をご覧になっていただくと、よりいっそう当作品の世界に入り込めるかと思います。

 

 

 

………………。

…………。

……。

 

 

生まれた時から鳥籠の中にいる鳥は。
 
それ以外の世界を、知らないから。
 
制限されている自分の生を。
 
その小さな世界を。
 
ちっとも苦痛とは、思わないらしい。
 
 
『幸福』というのは。
 
真実を知らなければ。
 
己の視野を狭く持てば。
 
簡単に、手に入るものである。
 
 
しかし。
 
――大きな世界を知れば。
 
知れば知るほど。
 
今までの幸福は、生は。
 
『地獄』に変わる。
 
 
『幸福』は常に。
 
認識と、矛盾した関係にあるものである。

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

――Am9:00――

 

 

リゼ「………………」

 

リゼ「…………」スゥ

 

――トントン

 

リゼ「千夜?」

 

千夜「あらリゼちゃん?おはよう」ガチャッ

 

リゼ「おはよう、今から掃き掃除か?」

 

千夜「うん、シャロちゃんのおうちの前もついでに」

 

リゼ「そうか、わたしも手伝うぞ」

 

千夜「ありがとう、助かるわ」

 

リゼ「二人でやれば早いもんな」

 

千夜「あっ、そういえばシャロちゃん今日は午前中にアルバイトじゃなかったかしら」

 

リゼ「……そうなのか?」

 

千夜「早く起こしてあげないと遅刻しちゃうわ」

 

リゼ「わかった、わたしが起こしてこよう」

 

千夜「でも、フライパンでカンカンしないと起きないかも」

 

リゼ「大丈夫、千夜はここで掃き掃除しててくれ」

 

千夜「リゼ教官の命令ね、従うわ」ビシッ

 

リゼ「ありがとう。終わったら中で待ってるんだぞ」ポンッ

 

千夜「いえっさー」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

千夜「お疲れ様」コトッ

 

リゼ「お茶か、すまないな」

 

千夜「シャロちゃん、ちゃんと起きてくれた?」

 

リゼ「ああ、慌てて用意してアルバイトに行ったよ」

 

千夜「寝ぐせ大丈夫かしら、ちゃんと櫛で梳いていればいいけど」

 

リゼ「ははっ、まるでお母さんだな」

 

千夜「昔から放っておけないの、シャロちゃんは」

 

リゼ「……そうか」

 

千夜「あんこはお散歩に行ったのかしら」

 

リゼ「あいつか……そういえば見当たらないな」

 

千夜「おばあちゃんもいないわ」

 

リゼ「……千夜のおばあさんならさっき買い物に行ったぞ」

 

千夜「そうだったの、じゃあリゼちゃんと二人きりね」

 

リゼ「そうだな、何か話でもするか?」ナデナデ

 

千夜「んっ……」

 

リゼ「千夜の髪はサラサラだな」

 

千夜「リゼちゃん、最近わたしのこと子ども扱いしてない?」

 

リゼ「あ……すまない、嫌だったか?」

 

千夜「ううん、もっと撫でてほしい」

 

リゼ「そうか、お安い御用だ」ナデナデ

 

千夜「気持ちいい……//

 

リゼ「………………」

 

千夜「今日はラビットハウスは?」

 

リゼ「休みだぞ」

 

千夜「そうなの」

 

リゼ「千夜がいいなら、今日はずっとここにいてもいいか?」

 

千夜「ほんと?ありがとうリゼちゃん」

 

リゼ「お昼頃には千夜のおばあちゃんが店番を代わってくれるだろうし、どこかに出掛けよう」

 

千夜「お散歩ね、せっかくだからココアちゃんとチノちゃんも誘う?」

 

リゼ「いや、あいつらはラビットハウスがあるから」

 

千夜「そうなの?残念」

 

――トントン

 

リゼ「!」

 

千夜「お客さんだわ」

 

リゼ「ちょっと待っていろよ」スッ

 

千夜「リゼちゃん?」

 

 

ガチャッ バタン

 

 

千夜「……?」

 

リゼ「――待たせたな」ガチャッ

 

千夜「お客さんは?」

 

リゼ「ん……道が分からなくて聞きに来ただけらしい」

 

千夜「迷子?」

 

リゼ「そんなところだ」

 

千夜「ここあちゃんみたいに違う場所から来たのかしら」

 

リゼ「そうかもな」ナデナデ

 

千夜「ん……」

 

リゼ「………………」ナデナデ

 

千夜「…………」

 

リゼ「千夜……朝ごはん食べたか?」

 

千夜「ううん、まだ」

 

リゼ「そうか、ならわたしが作ってやる」

 

千夜「リゼちゃんが?」

 

リゼ「ちょっと待っていろ」ガタッ

 

千夜「ふふっ……リゼちゃんまるでお母さんみたいね」

 

リゼ「………………」

 

リゼ「すぐにできるからな」ポンッ

 

千夜「楽しみ」

 

リゼ「…………」ナデナデ

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

千夜「いただきます」

 

リゼ「ああ」

 

千夜「…………」モグモグ

 

リゼ「どうだ?」

 

千夜「おいしいわ、少し薄味ね」

 

リゼ「……そうだよな」

 

千夜「リゼちゃんの分は?」

 

リゼ「わたしはもう食べてきた」

 

千夜「お腹すいてない?」

 

リゼ「大丈夫だ、気にしないで食べてくれ」

 

千夜「…………」

 

リゼ「千夜……?」

 

千夜「どうしてかしら。おいしいのに……せっかくリゼちゃんが作ってくれたのに」

 

千夜「あまり食欲がわかないの」

 

リゼ「……そうか」

 

千夜「あ、ごめんなさい、せっかく作ってくれたのに……。気にしないで」

 

リゼ「いや、いいんだぞ。無理しないで、食べられる限りで食べてくれ」

 

千夜「うん」

 

リゼ「………………」

 

千夜「ん……」モグモグ

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

リゼ「……………………」

 

千夜「……」Zzz

 

リゼ「…………」スッ

 

リゼ「……千夜。お前、こんなに細かったっけ」

 

千夜「……」Zzz

 

リゼ「………………」

 

リゼ「……っ」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

――dire?

 

――awkward?

 

――bleak?

 

――No.

 

I do not believe anyone can be perfectly well, who has a brain and a heart.
 
――脳と心を持っている人は、誰もが完全に元気になれるわけではない。

 

 

…………。

 

………………?

 

また、天井。

 

目が覚めたら。

 

いつも、この景色。

 

いつからだったかな。

 

――いつからだっただろう。

 

……いつから?

 

 

………………。

…………。

……。

 

 

千夜「…………」

 

シャロ「あっ……」

 

シャロ「ち、千夜、おはよう……目が覚めたのね」

 

千夜「シャロちゃん……?アルバイトは?」

 

シャロ「今日は無いわ、平気よ」

 

千夜「午前中だけだったのね」

 

シャロ「そうよ、午前中だけ……」

 

千夜「お昼からリゼちゃんとお散歩に行くの、良かったらシャロちゃんもどう?」

 

シャロ「ええ、一緒に行きましょう」

 

千夜「リゼちゃんは?」

 

シャロ「リゼ先輩ならすぐに帰ってくると思うわ」

 

千夜「…………」キョロキョロ

 

シャロ「……千夜?」

 

千夜「ここ……わたしの部屋」

 

シャロ「………………」

 

千夜「リゼちゃんが運んでくれたのかしら」

 

シャロ「……うん」

 

千夜「ダメね、営業中に眠っちゃうなんて」

 

シャロ「………………」          

 

ガチャッ

 

リゼ「千夜……目が覚めたのか」

 

千夜「おはようリゼちゃん。ごめんなさい、迷惑かけたわ」

 

リゼ「いいんだぞ、気にするな」

 

千夜「お店の方は大丈夫だった?」

 

リゼ「千夜のおばあちゃんが早めに代わってくれたよ」

 

千夜「そう、あとでおばあちゃんにも謝っておかないと」

 

リゼ「……シャロ?」

 

シャロ「は、はい……!」

 

リゼ「散歩に行こう、みんなで」

 

シャロ「あ……そうですね、そろそろ」

 

リゼ「千夜、起きられるか?」

 

千夜「うん」

 

シャロ「………………」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

――――――

――――

――

 

 

――PM1:00――

 

 

千夜「今日は涼しいわね」

 

リゼ「……そうだな」

 

千夜「もう夏なのに」

 

シャロ「…………」

 

千夜「そういえば、今年は梅雨入りがなかったわね」

 

リゼ「梅雨か……」

 

シャロ「…………っ」

 

千夜「シャロちゃん……どうしたの?」

 

シャロ「え……ううん、何も」

 

リゼ「シャロ……先に戻っていてもいいぞ?」

 

シャロ「大丈夫です、千夜と散歩したいですから」

 

千夜「小さい頃は二人で毎日冒険したわね」

 

シャロ「……!」

 

千夜「怖がるシャロちゃんを連れて知らないお店に入ったり、公園でかくれんぼしたり」

 

シャロ「……ちゃんと、覚えててくれてるのね」

 

千夜「シャロちゃんとの大事な思い出だもの」

 

シャロ「…………」

 

 

――distorted?

 

 

シャロ「…………」ポロポロ

 

千夜「……!シャロちゃん……?」

 

シャロ「ぅぐ……ぇぅ……」グシグシ

 

リゼ「っ……シャロ、やっぱり先に戻っててくれ……」

 

シャロ「リゼ先輩……でも」グスッ

 

リゼ「わたしは平気だから」

 

シャロ「……はい」

 

 

――No.

 

 

シャロ「千夜、ごめんね……」

 

千夜「あ……シャロちゃん、待って」

 

リゼ「千夜、シャロなら大丈夫だ」ガシッ

 

千夜「でも、泣いてたわ……」

 

リゼ「千夜のせいじゃない……誰のせいでも無いんだ」

 

千夜「リゼちゃん……?」

 

リゼ「気にしないでくれ……頼む」

 

千夜「………………」

 

 

――really?

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

千夜「帰りにメロンパンでも買っていってあげましょうか」   

 

リゼ「メロンパンか……あとでわたしが買ってくるよ」

 

千夜「今から一緒に行きましょう」

 

リゼ「いや、後にしよう」

 

千夜「………………」

 

リゼ「千夜?」

 

千夜「リゼちゃん……わたしに何か隠してる?」

 

リゼ「そんなことないぞ」

 

千夜「さっきから様子が変よ?」

 

リゼ「気のせいだ、わたしはいつも通りだ」

 

千夜「…………」

 

千夜「公園……人が少ないわね」

 

リゼ「珍しいよな、お昼過ぎなのに」

 

千夜「………………」キョロキョロ

 

千夜「こんなに小さかったかしら……」

 

リゼ「えっ……」

 

千夜「…………」タッタッタ

 

リゼ「あ、走ったらダメだぞ」

 

千夜「噴水もない……どうして」

 

リゼ「!」

 

千夜「ここ、いつもの公園じゃないわ……」

 

リゼ「っ……!」

 

千夜「リゼちゃん、ここ、どこ……?」

 

リゼ「千夜、落ち着け……」

 

千夜「甘兎庵から歩いてきたのに、どうしてこんなところに……」

 

リゼ「戻ろう、たぶん道を間違えただけだ」

 

千夜「間違えるわけないわ……だって、何度も通ってる道よ……」

 

リゼ「いいから、引き返そう!」グイッ

 

千夜「おかしい……おかしい……」ブルブル

 

 

――Afraid to know the truth.

 

――No.

 

――Madness.

 

MadnessMadnessMadnessMadnessMadnessMadnessMadness
MadnessMadnessMadnessMadnessMadnessMadnessMadness
MadnessMadnessMadnessMadnessMadnessMadnessMadness
MadnessMadnessMadnessMadnessMadnessMadnessMadness
MadnessMadness.

 

 

 

千夜「シャロちゃん、どうして泣いてたの……!」

 

リゼ「千夜……!」

 

千夜「夏なのに、どうして暑くないの……!汗も出ないの……!」

 

リゼ「……くっ!」ピッ

 

千夜「公園じゃない……ここはどこ……!リゼちゃん、教えて……!」

 

リゼ「千夜……すまない……っ!」

 

千夜「!」

 

 

………………。

…………。

……。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

……また、この場所。

 

……真っ暗な、場所。

 

人は生きている限り。

 

目を閉じれば、必ずこの場所へとたどり着く。

 

 

「ここには来るなって言っただろっ!」

 

「リゼ先輩、大声出しちゃダメです」アセアセ

 

「だって、わたしたちも千夜ちゃんのことが心配だから……!」

 

「チノにあんな姿を見せてトラウマになったらどうする……!千夜だって見られたいはずない!」

 

「部屋にいると思ってたから……ごめんなさい」グスッ

 

「……早くチノを連れてラビットハウスに帰れ」

 

「わたしも千夜ちゃんの側にいたいよ……」

 

「チノの不安を一番上手く拭えるのはお前なんだ……早く戻って安心させてあげてくれ」

 

「ヒック……グスッ……」

 

「ココア、ありがとう。チノちゃんにもありがとうって伝えておいて」

 

「シャロちゃん……」

 

「千夜だったらすぐに良くなるわ、あともう少し待ってて」

 

「……うん」ゴシゴシ

 

「怒鳴ったりしてすまない」ポンッ

 

「ううん……リゼちゃん、シャロちゃん。千夜ちゃんのこと、お願い」グスッ

 

「ああ、任せろ」

 

「千夜、ココアとチノちゃんが心配してきてくれたわよ……まったく、世話が焼けるわね」ナデナデ

 

「……早く、戻ってきて」

 

 

戻る……?

 

どこに……?

 

 

「っ……千夜……」ギュッ

 

 

シャロちゃんの手……。

 

 

「ほんとは、千夜が一番つらいわよね……!」ポロポロ

 

 

シャロちゃん……?

 

 

「分かってる……分かってるよ……!」ポロポロ

 

 

どうしたの……?

 

泣かないで……。

 

 

「ちや゛ぁ……ううっうぇぇえ……っ!」ポロポロ

 

「シャロ……っ……」

 

 

――Dream?

 

――No.

 

――Reality.

 

 

――You can close your eyes to things you don’t want to see, but you can’t close your heart to things you don’t want to feel.
 
――人間は、見たくないものには目を閉じられるが。
――感じたくないものに、心を閉じることはできない。

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

――PM6:11――

 

 

ガチャッ

 

リゼ「あっ……」

 

千夜「………………」

 

リゼ「千夜……おはよう」

 

千夜「………………」

 

リゼ「覚えてるか?昼間、散歩の途中でベンチに座ってたら、お前がそのまま寝てしまって……あ、メロンパン買ってきてあるぞ、シャロに渡すんだよな」

 

千夜「………………」

 

リゼ「千夜の分もある、食べるか?」ガサゴソ

 

千夜「………………」

 

リゼ「千夜……?」

 

千夜「シャロちゃん…………」

 

リゼ「シャロ……一緒に食べたいのか、分かった、すぐに呼んでくる」

 

バタン

 

千夜「………………」

 

千夜「…………」

 

千夜「……」

 

 

『ほんとは、千夜が一番つらいわよね……!』ポロポロ

 

 

千夜「………………」

 

 

『ちや゛ぁ……ううっうぇぇえ……っ!』ポロポロ

 

 

千夜「…………泣いてた」

 

千夜「……だめ」

 

千夜「シャロちゃんを泣かせたら……だめ…………」

 

千夜「だめ……だめ…………」

 

千夜「ダメ……だめ……ダめ……だメ……」

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

ガチャッ

 

リゼ「千夜、シャロを呼んできたぞ――――っ!?」

 

シャロ「千夜っ!!」

 

千夜「…………」ドカッドカッ!

 

リゼ「やめろっ!」ガシッ

 

千夜「……?」

 

シャロ「千夜、大丈夫!?千夜ぁ!」

 

千夜「シャロちゃん……?」

 

リゼ「こんなに腫れて……!シャロ、氷を貰ってきてくれ!」

 

シャロ「は、はいぃ!」

 

千夜「シャロちゃん、待って……泣き止んで……」

 

リゼ「千夜っ!」

 

千夜「!」ビクッ

 

リゼ「あ……――――……っ」

 

千夜「リゼちゃん……?」

 

リゼ「千夜……どうしてこんなことしたんだ?」

 

千夜「シャロちゃんを泣かせちゃったから……」

 

リゼ「……?」

 

千夜「わたしのせいで、シャロちゃん泣いてるの……」

 

リゼ「千夜のせいじゃない」

 

千夜「…………」

 

リゼ「言っただろう、誰のせいでもないんだ」

 

リゼ「だからもう二度とこんなことしちゃいけない……」

 

千夜「…………」

 

リゼ「腕、痛いよな……痣にならないといいけど」

 

シャロ「リゼ先輩!氷持ってきました!」ガチャッ

 

リゼ「ありがとう、シャロ」

 

シャロ「千夜は……!大丈夫なんですか……!」

 

リゼ「ああ、幸い左腕だけだった」

 

リゼ「少し冷たいけど我慢しろよ」ピタッ

 

千夜「シャロちゃん……ごめんなさい……」

 

シャロ「千夜……」グスッ

 

シャロ「もうこんなことしちゃダメ……絶対にダメだから!」ポロポロ

 

千夜「泣かないで……もうしないわ……」

 

シャロ「っ……!」ギュッ

 

千夜「……シャロちゃん?」

 

シャロ「わたしは千夜がいてくれればそれでいいの……!それだけで充分だから……!」ポロポロ

 

シャロ「わたしの名前を呼んでくれるだけで……忘れないでいてくれるだけで……!」

 

千夜「…………」

 

リゼ「シャロ……」ジワッ

 

シャロ「だから、千夜……お願い……っ!」ポロポロ

 

シャロ「いなくなったり、しないで……!」ポロポロ

 

リゼ「……っ!」ポロポロ

 

千夜「いなくなったりしないわ……わたし、シャロちゃんのことだいすきだもの……」ナデナデ

 

千夜「リゼちゃんのことも、ココアちゃんのことも、チノちゃんのことも。メグちゃんも、マヤちゃんも」

 

シャロ「これからも毎日来るから……!ずっと千夜のこと、待ってるから……!」

 

千夜「来るのに待つの……?変なシャロちゃん……」ギュッ

 

シャロ「く……うぅっ……えぐっ……!」ポロポロ

 

リゼ「シャロ……心配いらない」ポンッ

 

リゼ「お前の気持ち、千夜にはちゃんと伝わっているよ……なっ、千夜?」

 

千夜「うん。明日も遊びに来てね、シャロちゃん。リゼちゃんも」

 

リゼ「ああ、必ず来るぞ。ちゃんと千夜に会いに来る」

 

シャロ「指切りしましょ」スッ

 

千夜「ええ」スッ

 

リゼ「…………」

 

 

 

絡めた互いの小指は。

 

きっと同じように。

 

相手に温もりを伝えていて。

 

同じ場所に。

 

こんなに近くにいるのに。

 

離れてしまった繋がりは。

 

それでもなお、元に戻らなくて。

 

もどかしくて。

 

悔しくて。

 

ただ、お互いを想う気持ちだけが。

 

空回りして。

 

互いの生きている。

 

同じようで、全く違う世界に。

 

むなしくも、響き渡る。

 

 

………………。

…………。

……。

 

 

――A million words would not bring you back, I know because I tried, neither would a million tears, I know because I cried.
 
 
――100万の言葉ではあなたを呼び戻せない。
――もう試したから、知ってる。
――100万の涙でもあなたを呼び戻せない
――もう泣いたから、知ってる。

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

――PM7:44――

 

 

リゼ「………………」

 

千夜「………………」

 

リゼ「………………」

 

千夜「ねぇ……リゼちゃん」

 

リゼ「んっ……どうした?」

 

 

千夜「……わたし、戻れる?」

 

 

リゼ「………………」

 

千夜「シャロちゃんが、戻ってきてって」

 

千夜「待ってるって、言ってたわ」

 

リゼ「……聞こえてたのか、昼間の話」

 

千夜「うん」

 

リゼ「……そうだな」

 

リゼ「戻れるよ、千夜ならきっと」

 

千夜「ほんと?」

 

リゼ「ああ、千夜は負けたりしないさ」

 

 

千夜「……なにに?」

 

 

リゼ「…………」

 

千夜「……クスッ。ありがとう、リゼちゃん」

 

リゼ「千夜……」

 

千夜「わたし……頑張るわ」

 

千夜「自分で答えを探さないといけないことなのよね、きっと」

 

千夜「だからリゼちゃん――これからも見守っていてくれる?」

 

リゼ「ああ、もちろんだ。わたしだけじゃない、シャロもみんなもずっと千夜のこと見守っているぞ」

 

リゼ「お前はひとりじゃない」テ ギュッ

 

千夜「うん……」

 

リゼ「これからもずっと……」

 

千夜「………………」

 

リゼ「――千夜?」

 

千夜「…………♪」ポロポロ

 

リゼ「……!」

 

千夜「」ニコッ//ポロポロ

 

 

――The truth lies within you.

 

 

――おしまい

 

感想

  1. SS読むの大好き より:

    お久しぶりです。いつも幼いココアシリーズなどを読ませていただいています。

    幸福を知った分失う者も多いという事が分かりました。

    • 砂水クジラ砂水クジラ より:

      お久しぶりです、やっと復活できました。
      これは少し難しかったですかな。

  2. Beyond the Average より:

    砂水先生お久しぶりです。また新しいお話を読めることがすごくうれしいです!

    今回も噛めば噛むほど深い味わい…もうこれで5回読みましたがまだわからないことだらけです。
    以下はそんな私の考察です。
    まず、千夜の目線で書かれているので「本当の」状況の理解が大変難しかったです。
    おそらく、千夜は鳥籠という名の「病室」にいたのだと思います。
    千夜が朝食を食べたときに薄味だと言って、リゼが「そうだよな」と返す場面がありますが、朝食は院内食でリゼは配膳しただけならすぐ用意できるし、楽しみだと言われても無言だし、いろいろつじつまが合います。
    あんこもおばあちゃんもいないのも不自然です。
    では、物語冒頭の、いかにも甘兎庵の前っぽい状況は?というとリゼがシャロを起こしに行って千夜は掃き掃除を…するはずですがそれなら千夜がシャロを見ないことはありえないはずです。すぐ隣だし、リゼだけで起こしに行っても千夜はシャロの様子を察することができるはずです。その後の千夜の質問とリゼの返事も不自然です。
    次に天丼?目が覚めたら天丼ということは、鬼教官リゼの施設…ではなく警察署?でもあそこはかつ丼だったような?考えすぎて空回りしました。
    警察署だったとして、なぜそこにいたのか?きっとおばあちゃんが亡くなってから事情聴取が続いたのでしょう。自白を強要され、精神がぼろぼろになるまで…(あくまでおばあちゃんが亡くなったという仮定です。)
    次の場面でシャロが返事できなかったのは「千夜の部屋」ではなく「営業中」でもないからだと思います。これで病室説が有力になりました。
    公園(?)の場面も謎だらけでした。ここは珍しく千夜のセリフが情報源でした。そこはいつもの公園ではない、そもそも公園じゃない。梅雨も夏も無い。ではそこはどこ?リゼが一瞬ピッとボタンを押してすまないと言って終わったので室内ではないかと思いました。照明を切って真っ暗にした?まるで劇の舞台だなと思いました。それとも昔のゲーム機のような…
    最後に、私はここまで書いて、1回目は大変ミスリードしてたんだなと実感しました。そして5回読んだ今でも仮定だらけの考察で、真実は何なのかまだわかりません。(ところどころのシーンから、千夜は寝たきり状態説などもありえます。)
    長い文章になってしまいました。しかも投稿が遅くなってしまったこともすみません。

    • 砂水クジラ砂水クジラ より:

      無事に復帰いたしました、そして早速のご感想ありがとうございます。
      そして復帰直後にいきなりこのような作品で誠に申し訳ありません。
      あなたの考察に対しわたしなりの答えをお返ししたいと思います。

      千夜ちゃんが病室にいるのでは、ということですが。はい、まさにその通りです。
      今作のタイトルである『鳥籠』は、『病院内』という意味も含めております。
      千夜ちゃんは、甘兎庵にいるという思い込みで幻覚を見ています。

      天丼……?もしや、天井と間違えておられますか?
      警察署にいたという描写は、わたしは意図しておりませんね。

      公園のシーンですが。
      あれは病院内の廊下ですね。
      リゼちゃんがボタンを押したのはナースコールです。
      千夜ちゃんがパニックで暴れ出す可能性があるので、看護師さんを呼んだのかと。
      梅雨が無いのも、夏が無いのも、全ては病院という鳥籠にいるからです。
      千夜ちゃん自身がそのことに気付いたとき、幻覚から覚めた時、初めて鳥籠の中から出ることが出来るのでしょう。
      でも、そのことをリゼちゃんたちから言っては意味がなく。
      千夜ちゃん自身が向き合い、それに気付いて、もう一度現実に還ってこなければいけないのです。

      と、非常に裏テーマが怖い今作でした。
      病院内ということに気付かれたのはさすがでございます。それだけでも本作の隠された真実を十分にご理解されているかと。
      また、解釈は人によって様々であり、どんな答えを出して頂いても決して間違いはございませんので大丈夫です。
      とても興味深い考察、ありがとうございます。
      ※また返信が非常に遅れてしまいました、ごめんなさいm(__)m

      • Beyond the Average より:

        本当だ!!天井ですね!!天丼でなく。失礼しました。(5回とも天丼と読んでいた私は(笑)………)
        公園のシーンが一番考えました。室内というのは外出してないのでいい線いってましたかね。
        今回もとても読みがいのあるお話をありがとうございました!

  3. 黒みー より:

    大変お久しぶりです。ド低脳の私には物凄く考察が難しく感じますが取り敢えずある程度推測・解釈したものを箇条書きに。
    ・心因性記憶障害(前回の作品での考察より。あんこがいない事をあまり不自然に思っていないところから過去の記憶をショックから閉じ込めてしまった可能性がある。)
    ・上記の記憶消失はお婆ちゃんとあんこ関連のみ。シャロちゃんが泣いているのは恐らく千夜が過去の記憶(2人で遊んだ記憶)を覚えていた事への一種の安堵かと……
    ・間に挟まれる英語はナレーション?と千夜の心の奥底の言葉(多分) これはちょっと簡単に分類するのが難しいのですけど、千夜さんと仲間の会話の後に続く言葉は明らかに千夜さんのものかと。(really?など)
    ・以前にも発狂した事がある チノに見せてトラウマになったら〜 という文より。単純過ぎますけど
    ・摂食障害 これも描写を見て明らかにわかる事ですが、もしかしたら大好きだった和菓子も食べられなくなってしまっているのでしょうか……(というよりも食べるのを拒否してしまう?)
    ・千夜さんは一応本当に家の中にいる?
    最初は千夜さんの作り出した幻覚かと思ったのですが、それならリゼちゃん達はもっと彼女に都合の良い発言(千夜ちゃんの記憶に問題が生じている事を仄めかす事がないような発言)や言動を起こしていると思うのです。ただ、それが千夜さんが自身に対しての理性として具現化されたものだと言われたらそうなのかもしれません。ずっと住んでいる家の事であるのならば「いつからだっただろう」とは考えないような気がするし……。……やはり、病室の中?(汗)
    ・離れてしまった繋がりについて これは作中でもヒント、というよりもまんま答えを書いていらっしゃっていたと思いますしくどいようですが……起こった真実を知っているシャロちゃん達と記憶を消し去ってしまった千夜さんでは、どうにもすれ違いや違和感が生まれてしまうようですね。みんなは確かに友達のはずだが、共通に認識している筈のもの……現実に違い、ギャップが生まれてしまっている。自ら記憶を消し去ってしまった筈の彼女にもその違和感はどうにも拭えない様子。「自分で答えを探さないといけないことなのよね、きっと」という台詞から、なんとなく気付き始めているのかもしれませんが……
    ・公園で感じた違和感
    正直言ってこれに関してはお手上げ状態だったのですが、ふと狂気リゼちゃんの話を思い出してなんとなくわかったような気がします。記憶消失とは別に、気温の感知や視覚に問題が生じているのでしょうか。(狂気リゼちゃんが雨に気付かなかった事を思い出して適当に考えたのですが)でも千夜さんのそれは狂気とは違うような……

    めちゃめちゃ長くなってしまったのですがこんな感じです。こうして考察してみると案外そこまで難しいお話ではなかったのかな?ヒントも多かったような気がしますし……,。久々に砂水さんの作品を読みましたが、今までに知ったものとはまた違う恐怖を感じて死にかけました。流石です。
    執筆お疲れ様でした。風邪を引かれたようですが、あまりご無理はなさらないでくださいね?

    • 砂水クジラ砂水クジラ より:

      精神的に来る方の恐怖を感じて頂けましたか、なによりです。
      なら本作は、成功と言えます。

      心因性記憶障害……良いところを突かれますね。
      妄想世界に逃げている、といったほうが的確でしょうか。
      千夜ちゃんの見ている世界は、全て千夜ちゃん自身の妄想です。
      この物語は最初から最後まで病院の中で展開されています。
      汗もかかないのも、梅雨が来ないのも当然なのです。
      病院の中なのですから。
      英文はミーさんのおっしゃるように、千夜ちゃん自身の心が叫んでいるような。
      まだ現実に戻れる可能性が残っているのでは?ということを仄めかす描写にしました。
      リゼちゃんたちが時折り千夜ちゃんにとって不都合な会話をするのは、少しでも千夜ちゃん自身に自分の見ている世界が妄想だと気付いてもらえるようなきっかけを作りつつ、反面千夜ちゃんにパニックを起こしてほしくないという二律背反の気持ちからくる行動と言いますか……この辺は理屈ではお伝えし辛いですね。
      千夜ちゃんに悲しい思いをしてほしくないけど、早く気付いてほしい、といったところですかな。
      パニックを起こして何度も発狂しているのでしょうね、リゼちゃんの慣れた手つきによるナースコールで読み手側にもそれを匂わせていたりします。

      そして、この作品の大きな部分。
      ミーさんのおっしゃった、千夜ちゃんが妄想とのギャップに違和感を覚えなんとなく気付き始めているのではないかという考察。
      その通りです。
      この妄想世界は千夜ちゃん自身が作り出したものであり、現実から自分を守るシェルターのようなものです。
      しかしリゼちゃんやシャロちゃん、みんなの尽力によってそれすらも幸福ではないことに千夜ちゃん自身が気付き始めています。
      辛い現実を受け止めてでも、みんなと同じ世界を生きる方が幸せなのではないかと。
      本心では、妄想世界からの脱出を望んでいるのでしょうね。
      ラストのシーンで笑っている千夜ちゃんですが。
      あれが妄想世界からこちらに帰ってこられた描写なのか、はたまたこれから妄想世界からの帰還を決意した描写なのか。
      この辺は、読み手側の想像にお任せしたいと思います。
      どちらによ、千夜ちゃんが前向きに歩まれると良いですね。

      と、今作はこんな感じでした。
      やはりこういう物語は私自身描いていてとても楽しいです。
      本来の作風を前面に出せるのがその理由だと思いますけど。
      詳しい考察、誠にありがとうございます。
      またここであなたにお会いできることを楽しみにしておりますよ。
      ありがとうミーさん。 From 砂水クジラ

  4. 黒みー より:

    追記
    今頃になって気づいたのですが、千夜さんが公園にいるというのが彼女の厳格だったとすれば、知覚や視覚に問題が起きているという事に色々と矛盾が生じてしまっていますね。改めて考えると幻覚を見ているという説の方が正しいのかな……?後者は色々と滅茶苦茶な部分もありますし
    失礼しました

  5. Beyond the Average より:

    このお話が公開されてもうすぐ2年が経つので、もう一度読んでみました。
    今なら砂水先生の作風をおおよそ理解できているので、すっと頭に入ってきますね。
    千夜が病院にいて記憶は一部欠けていて、でも友人との思い出は残っていて…。
    あたかも千夜の家でお話が進んでいるように見えるけども、それは視点が千夜であるから。
    視点が信頼できないお話は初見には本当に難しいですね。
    私はこの2年でそのような作風にだいぶ慣れたかなと思います。
    (まだまだ修行中です)

    「私がただ思い出に恋しているだけなのかもしれない。」
    これはある小説に出てきた表現です。
    好きな人が魔法で小石に変えられたとする。
    その小石にはその人の意識があり、思考するだけで何もできないただの小石。
    その小石を捨てられないのなら、何が小石を引き留めているのか?という問いに対する答えです。

    今の千夜を見て、もう元の日常に戻れないことを悟って、シャロは千夜と一緒にいて幸せなのか?
    シャロは思い出が恋しいだけなのでは?
    とても暗いですが、そんなことを考えてしまいました。
    砂水先生の作品に愛の起こす奇跡とか科学を超越だとかが無いところが、残酷で美しいと思いました。(聞こえが悪いかもしれませんが、褒めてます!!)

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